読者認知症患者さんに、また点滴を自己抜去されてしまった……



病棟で働く看護師にとって、認知症高齢者への対応は神経を使う業務の一つですね。
現在、日本国内では高齢化に伴い、各自治体での認知症施策が加速しています。
厚生労働省によると、2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になると示されています。
少子高齢化社会の中で、認知症の方々を支えるには、地域全体で「共生」と「予防」の取り組みが重要です。
医療現場でも、認知症を持つ患者さんへのケアは、原因をアセスメントして安心・安全の提供が欠かせません。
本記事では、明日からの実務に実践できるアセスメントと対応策について解説します。
認知症の不穏・徘徊を減らし、患者さんが心地よく過ごせるケアを提供しましょう。
看護師がおさえるべき認知症高齢者対応の3原則


認知症ケアは、患者さんの安全・安心や、BPSDの背景を理解することが基本的な3原則です。
チーム全体で共通認識を持ち、質の高いケアを提供しましょう。
①安全確保を最優先にする
認知症看護における最優先事項は、転倒や自己抜去などの事故を未然に防ぐ環境調整です。
特に急性期病棟では、予定通りに治療を進め、一日も早い回復を目指すことが重要です。
認知症患者さんは点滴や酸素マスクを「自分を拘束する不快なもの」と誤認し、自己抜去リスクが高い傾向があります。
自己抜去や転倒事故は、管の再挿入による身体的苦痛や、骨折による寝たきりなどの可能性も高めます。
そのため安全確保には、以下の環境づくりが不可欠です。
- 転倒・転落防止:離床センサーの設置などの環境整備
- 視覚的サポート:トイレや部屋の分かりやすい掲示、夜間照明の確保
- 危険物の管理:薬剤やルートの視覚外への整理
- 心理的安定:声掛けの工夫
- 情報共有:スタッフ間での情報共有、見守り体制の統一
自己を「先読み」する安全対策は、患者さんの安全だけでなく看護師自身の精神的な余裕にも役立ちます。
②安心につながる声かけ
認知症患者さんとのコミュニケーションでは「否定せず・短く・一つずつ」伝えることが大切です。
理解しやすい言葉や説明、声かけの雰囲気は認知症患者さんに安心感を与えます。
一方で、複雑な指示や否定的な言葉は、混乱と拒絶を招く要因になりかねません。
認知症の方は、言葉の意味そのものよりも、相手の表情や声のトーンで「敵か味方か」を直感的に判断します。
安心感を与えるためには、以下のアプローチを行うとスムーズな意思疎通が可能になります。
- 感情に共感する:「そうなんですね」「お困りですね」と一度受け止める
- 否定を肯定に言い換える:「〜しましょうか」と前向きな提案に変換する
- 非言語情報を一致させる:穏やかな表情とゆっくりした声のトーンを意識して接する
適切なコミュニケーションを日常ケアに組み込むことは、患者のQOL向上やBPSDの軽減に有効であることが、研究でも示されています。
認知症患者さんが安心する姿勢や言語を意識して関わるスキルが大切です。
③BPSDは背景を探す
周辺症状(BPSD)が現れた際は、行動の裏にある身体的・環境的な「原因」をアセスメントする必要があります。
認知症患者さんは、苦痛を言語化するのが苦手な方が多いです。
そのため、不穏や拒否という形で意思表示しているケースがあります。
BPSDが現れたときは、以下の内容をチェックしましょう。
- 痛み:痛みが伝えられない苛立ち
- 排泄:便秘や尿閉による腹部膨満感
- 感染:発熱や腫れによる意識レベルの微細な変化
- 脱水・低酸素:飲水量、尿量、SPO2の数値的な変化
- 薬剤の影響:新規導入薬の影響
- 環境の変化:慣れない入院環境、夜間の騒音、照明
上記内容は、BPSDの原因背景に多いため、アセスメントや根拠にもとづいた介入がしやすくなります。
不必要な鎮静薬の使用を避けることにもつながり、認知症患者さんの日中の活動にも影響しにくくなります。
認知症高齢者の不穏対応


不穏状態の認知症患者さんへの対応は、原因分析と早期対策が必要です。
認知症患者さんが興奮している原因を分析し、非薬物的なアプローチを積み重ねることで、不穏連鎖の遮断が目指せます。
ここでは、認知症患者さんの不穏対応を解説します。
不穏の引き金を切り分ける
不穏の原因が疾患や薬剤に起因する「一時的なせん妄」もしくは「周辺症状(BPSD)」なのか、切り分けることです。
急性期病棟では、疾患や術後の侵襲、薬剤などの影響で「せん妄」が発症しやすい状態です。
単なる「認知症による不穏」と思い込まず、全身状態を観察し身体のサインを見落とさないようにしましょう。
急に不穏になった場合は、以下のバイタルサインや意識レベルの変化、環境要因など経過を比較して確認します。
- 急激な変化の確認:バイタルサインや意識レベルの変化
- 身体的苦痛の確認:術後の創部痛や尿閉、便秘などの下腹部痛
- 環境・薬剤要因の精査:薬剤の影響、夜間の過度な照明・騒音
研究でも「痛み」が興奮を引き起こしやすいことが報告されています。
不穏とひとくくりにせず、一時的なせん妄とBPSDとの切り分けをするためのアセスメントと観察力を養いましょう。
エスカレートさせない初動
不穏行動をエスカレートさせないためには「刺激を最小限に抑え、威圧感を与えない姿勢」が大切です。
興奮状態になると、感覚が過敏になり周囲の反応を察知しやすくなるため、心理的な安心感は不可欠です。
複数のスタッフで囲んだり、立ったまま威圧的に指示を出したりすると、攻撃的に受け取られます。
その結果、防衛本能で不穏が激化し、かえって危険な状況を招く恐れがあります。
不穏に対しては、以下のような「非言語的コミュニケーション」を意識した対応を行いましょう。
- 対応人数の制限:視界に入るスタッフを最小限(できれば1〜2名)に絞る
- 目線の高さを合わせる:腰を下ろして患者さんの目線よりやや低位置に構える
- 非対決的な声掛け:命令形を避け、穏やかな提案・共感のトーンで話す
看護師が「味方であること」を姿勢と声のトーンで一貫して示すことで、患者さんの警戒心を少しずつ緩和されます。
初動で適切な距離感と安心感を提供することが、状況を早期に沈静化させるために大切です。
非薬物的介入の引き出し
認知症患者さんのQOL(生活の質)向上と安全な療養生活を両立させるためには、非薬物的介入を持つことが大切です。
薬や身体拘束に頼る前に、まずは「過ごしやすさ」をデザインする視点が求められます。
認知症の方や体調を崩されている方は、周囲の変化に対して敏感になっている方が多いです。
普段の照明の明るさや廊下の物音、部屋の温度などが、苦痛であったり、不穏を引き起こしたりする可能性があります。
以下の介入は、非薬物的介入の引き出しとして役立つのでご活用ください。
- 生活リズムの適正化:夜間は決められた時間に照明を落とし、日中とのメリハリをつける
- 心理的な安心感の提供:本人の馴染みある物を視界に入る場所に置く
- ケアのルーティン化:見守りの位置やケアの手順を固定する
日頃から環境調整やケアをルーティン化することで、生活リズムが整いやすくなります。
日中の活動を活発にする関わりを重ねることで、患者さんとの信頼関係を深め、穏やかな療養環境を提供しましょう。
家族への説明
不穏対応の方針を検討する際は、ご家族と「ご本人の意思」と「安全確保」について情報共有するすることが不可欠です。
病院側だけでリスクを抱え込むのではなく、ご家族に現状の困りごとを率直に伝えることで、家族が納得し協力体制が得られます。
医療現場だけでリスクを管理しようとすると「制限」や「管理」が先行し、ご家族との安全面に対する温度差が生じやすくなります。
家族へ説明するときは単なるリスク説明に留まらず、以下のようなステップで対話を深めましょう。
拘束している場合は、必要な理由を明確に伝える。
例:「現在は転倒や点滴の自己抜去のリスクが高まっているため、一時的に安全を最優先させていただいています」
自宅での過ごし方を家族から情報収集し、環境調整に活用する。
例:「ご自宅ではどのような時が一番穏やかでしたか?」
「自宅で愛用していたものがあればお持ちください」
家族から認知症患者さんが安心する声かけを依頼する。
例:「私たちが安全を守る間、ご家族には安心する言葉をかけていただきたいです」
「現在は治療中であることや、自宅は管理しているなど安心して大丈夫だとお伝えいただきたいです」
ご家族を「説明の対象」ではなく「ケアチームの一員」としてお迎えすることで、クレーム防止を超えたメリットが生まれます。
認知症高齢者の徘徊対応


徘徊は、本人にとっては「目的のある移動」であることがほとんどです。
単に行動を制限するのではなく、徘徊する目的を推測し、事故のリスクを最小限に抑える必要があります。
ここでは、認知症患者さんの徘徊対応について解説します。
徘徊の目的や理由を読む
徘徊対応において大切なのは、徘徊する「目的」をアセスメントすることです。
認知症の歩行には尿意や探し物、帰宅願望などの動機が存在します。
夕刻は、視力低下による「影」への恐怖や、一日の脳疲労による自己抑制力の低下が重なり、不安が増強しやすいです。
日没とともに家庭の記憶が刺激され、居場所を求める切実な行動(夕暮れ症候群)が誘発される事が多くなります。
排泄パターンを確認して尿意の有無を評価したり、日中の活動量を調整して面会後の寂しさに配慮したりなどの対応が必要です。
主な徘徊の理由と対応策は以下があります。
| 徘徊の理由 | 対応策 |
|---|---|
| 生理的欲求 (排泄・口渇感) | ・排泄パターンの把握 ・空腹や喉の渇きの解消 |
| 精神的変化 (寂しさ・焦燥感) | ・傾聴 ・役割提供の提案 |
| 夕方の環境調整 | ・証明を明るくする ・日中の活動に対する疲労感 |
徘徊で疲れている場合は、おやつや水分補給の時間を設けると、落ち着く場合があります。
徘徊する時間や目的を先回りし、ケアを行うことで、無目的な歩行が減り、転倒リスクの軽減にもつながります。
事故を減らす環境調整
徘徊に伴う事故を防ぐためには、動線上の物理的なリスクを考慮した環境調整が必要です。
認知症患者さんは、脳の機能低下により「空間把握」や「危険予測」が難しい状態です。
潜在的な危険を排除するために、優先的に取り組むべき具体的な環境調整の例を以下にまとめました。
| 項目 | 対応策 |
|---|---|
| 動きやすい導線 | ・適切な離床センサーの設置 ・コード類はまとめておく ・床頭台は端に設置 |
| 視覚的な誘導 | ・足元灯の設置 ・トイレの案内提示 |
| 履物の選択 | かかとのある滑りにくい靴 |
| 危険因子の除去 | ・ハサミや未服用薬の回収 ・点滴ルートやドレーン類を包帯で覆う |
聴覚が衰えているため、視覚から情報を収集しやすいですが、小さい障害に気付きにくい状態です。
徘徊は「止める」ことが難しいため、物理的な障壁の取り除きをが事故を減らす環境調整に重宝します。
声かけは「止める」より「置き換える」
徘徊している患者さんへの声かけは制止ではなく、別の行動への「置き換え」が有効です。
認知症患者さんの徘徊は目的があるため、否定すると恐怖や混乱を招く原因につながる可能性があります。
不穏状態を回避しながら、自然な形で安全な場所へ誘導しましょう。
現場でも活用しやすい、以下の置き換えの流れをご紹介します。
「家に帰る」と訴える場合は「ダメです」と言わず寄り添う。
「帰り道を一緒に確認しましょう」と同じ方向へ歩く。
一緒に歩きながら休息を提案し、別のことに意識を向かせる。
例:「歩いたら喉が渇きませんか?」
「あちらで少しお茶を飲んでからにしましょう」
対等な感性を保ち、足を止める環境をつくる。
例:「お隣に座ってもいいですか?」
本人の目的を否定せず、別の安心できる行動に置き換えるアプローチを意識しましょう。
患者さんの尊厳を守りつつ、安全確保へと誘導することがポイントです。
夜勤帯の運用
スタッフが限られる夜勤帯での対応は、チーム内での優先順位付けと効率的な見守り体制の構築が重要です。
一人の患者さんの対応に付きっきりになると、他の患者さんへの注意や配慮が不足しやすくなります。
誰が・いつ・どこを重点的に見るかを組織的に管理しなければ、現場の疲弊やインシデントを招く可能性があります。
限られた人数で安全な夜間環境を維持するために、以下のポイントをチームで共有しましょう。
- 高リスク患者の優先順位を共有:転倒リスクや不穏傾向を情報共有し、重点的な見守り対象を把握
- 巡視頻度と動線の調整:徘徊する患者さんの居室をナースステーション近くに移動、接触回数を増やす
- 役割分担の明確化:バックアップ体制をあらかじめ決めておく
個人の負担にせず「チームの運用ルール」を確立することで、少人数の夜勤帯でも患者さんの安全につながります。
認知症高齢者は原因アセスメント×安心×安全対応が要
認知症高齢者への対応で迷ったときは「原因のアセスメント」「精神的な安心」「物理的な安全」の3点を意識しましょう。
BPSDの背景には、以下のような身体的な苦痛が伴っている場合があります。
- 痛み:痛みが伝えられない苛立ち
- 排泄:便秘や尿閉による腹部膨満感
- 感染:発熱や腫れによる意識レベルの微細な変化
- 脱水・低酸素:飲水量、尿量、SPO2の数値的な変化
- 薬剤の影響:新規導入薬の影響
- 環境の変化:慣れない入院環境、夜間の騒音、照明
全てを不穏行動ととらえずに、バイタルサインの変化や行動変化をアセスメントする必要があります。
認知症患者さんの安全には、家族の協力も欠かせません。
拘束が必要な場合は明確な理由を伝えたり、情報共有や自宅から慣れ親しんだ物品を持ち込んでもらうなど、協力依頼をしましょう。
認知症患者さんの徘徊には目的が存在するため、否定せずに寄り添いながら時間を共に過ごします。
適時、休憩などを提案し目的を置き換えるテクニックは、経験が求められます。
夜勤帯は人数が限られるため、チームでの情報共有や部屋の移動、巡回回数を増やすなど協力しましょう。
認知症患者さんへの尊厳や尊重した姿勢は、安心感を与え信頼関係の構築につながります。
少しずつできる取り組みから実施しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。

コメント